この記事のポイント
- ブラウンは2023年に**2年4,500万ドル**の契約を結んだが、3年後のいまは保証のないキャンプ契約でニックスの最後の枠を争っている
- NBAは「ロスターの人数は変わらず、年俸の総額は約13億ドル増え、どの層も約30%上がった」と反論した
- MLEで600万ドル以上の契約を結んだ選手は17人で、導入前(10人)より多い。**平均で見ればNBAの言うとおり**だ
- ただし2ndエプロンを超えたチームは最低年俸の選手しかとれない。いま唯一超えているナゲッツは、ブラウンではなくデローザンらを最低年俸で集めた
- 苦しいのは“中堅全体”ではなく、**30歳前後で役割のはっきりした控え**。この層の行き先が、強いチームほど細くなっている
数字で見る“中堅選手”論争
NBAが言う、2ndエプロン導入後に増えた選手の年俸の総額(約2,050億円)
ブラウンが2023年にペイサーズと結んだ契約の1年あたりの額(約36億円)
ブラウンがいまニックスと結んでいる契約で、保証されている額
使えるお金の上限(2ndエプロン)を超えているチーム。ナゲッツだけ
ブラウンの「中堅には厳しい」に、NBAがその日のうちに反論した
10月9日(現地)、ニックスのブルース・ブラウンはプレシーズンの試合のあと、SNYのイアン・ベグリー記者らに対して、昨季ナゲッツで82試合すべてに出たのに保証のある契約を得られなかったことに驚いたと話した。ブラウンは、いまの労使協定(選手会とリーグの取り決め)は最高額の選手や人気のFA、一部の若手の延長には良いが、中堅の選手には厳しいと言い、MLE(中くらいの額で選手をとれる枠)を満額で使えるチームが減ったことを理由に挙げた(Hoops Rumors、NBC Sports)。
同じ日、NBAの広報はXで声明を出した。ブラウンの名前は出していないが、「2ndエプロンが“下の層”や“中間層”の選手を苦しめているという最近の報道は事実ではない」とし、2ndエプロンが始まってからもロスターの人数は変わらず、選手の年俸の総額は約13億ドル(約2,050億円)増え、どの層の選手も約30%上がったと説明している(NBC Sports、Hoops Rumors)。
リーグが1人の選手の発言にその日のうちに数字で反論するのは珍しい。それだけ「2ndエプロンが選手の取り分を減らしている」という見方が広がるのを嫌がっている、とも読める。2ndエプロンは、チームの年俸の総額がある線を超えると補強に強い制限がかかる仕組みで、今季の線は約2億2,169万ドル(約350億円)だ。詳しくは「NBAの2ndエプロンとは?」で解説している。
年2,250万ドルから保証なしへ。ブラウンの3年間
ブラウンの言葉に重みがあるのは、本人の3年間の契約がそのまま“中堅の値段”の変化を映しているからだ。2023年にナゲッツの控えとして優勝したブラウンは、その夏にペイサーズと2年4,500万ドルで契約した。1年あたり約2,250万ドル(約36億円)で、控えの選手としてはかなり高い額だった。
その後はトレードでラプターズ、ペリカンズと渡り、2025年夏にナゲッツへ戻ったときは最低年俸の1年契約だった(Spotrac)。そして昨季ナゲッツで82試合に出たあとの今夏は、どのチームからも保証のある契約が出ず、ニックスと“エキシビット9”と呼ばれるキャンプ契約を結んだ。開幕ロスターに残れなければ、1ドルも保証されない。
もちろん、3年で額が下がった理由は労使協定だけではない。ブラウンは30歳になり、ひざのけがもあった。それでも、優勝チームの控えとして全試合に出た選手が保証なしで開幕を待つのは、数年前なら考えにくかった。ブラウン本人が「驚いた」と言うのも無理はない。
ブルース・ブラウンの3年間の契約
平均で見ると、NBAの言うことは間違っていない
では、NBAの反論は的外れなのか。数字を見るかぎり、そうとも言えない。リーグの売り上げに合わせてサラリーキャップ(チームが使える年俸の基準)は上がり続けていて、2023-24の約1億3,600万ドルから、今季は約1億6,496万ドルになった。3年で約21%の上昇で、選手全体の取り分が増えているのは確かだ。
MLEの使われ方を見ても、中くらいの契約が消えたわけではない。Hoops Rumorsの集計では、今季MLEを使って600万ドル(約9.5億円)以上の契約を結んだ選手は17人いて、そのうち4人は1,400万ドル以上だった。新しい制限が始まる前の2023-24は、500万ドル以上が10人、900万ドル以上は3人だった。人数でも額でも、MLEの契約はむしろ増えている。今季のMLEの満額は約1,504万ドル(約24億円)だ。
ESPNのボビー・マークス記者も昨夏、中間層の年俸は上がり続けているというデータを示していた(Hoops Rumors)。ただし、NBAの「どの層も約30%上がった」という数字は、どの年と比べたのか、どこからを“中間層”としたのかが声明からは分からない。キャップの上がり方(約21%)より大きいので、基準の年の取り方で数字は変わる。ここはリーグの発表ベースとして受け止めておきたい。
MLE(中くらいの額で選手をとれる枠)で大きな契約を結んだ選手の数
苦しいのは“強いチームの控え”。ナゲッツがその例になった
平均が上がっているのに、ブラウンのような選手が苦しく感じるのはなぜか。答えは、どのチームがお金を出せなくなったかにある。2ndエプロンを超えたチームは、MLEを使えず、トレードで年俸を多く受け取ることもできない。新しく選手をとる方法は、ほぼ最低年俸の契約だけになる。そして2ndエプロンを超えるのは、たいてい優勝を狙う強いチームだ。
その典型がナゲッツだ。Hoops RumorsとESPNによると、ナゲッツは今季、リーグで唯一2ndエプロンを超えているチームで、スペンサー・ジョーンズへのサンダーのオファーに合わせて残したことで線を越えた。そのため夏の補強は、デマー・デローザン(ベテランの最低年俸、約390万ドル)、マービン・バグリー3世、アルファ・ディアロ、タイアス・ジョーンズといった最低年俸の契約で埋めるしかなかった。ブラウンとは新しい契約を結ばなかった。ナゲッツの年俸の全体像は「ナゲッツの2026-27サラリーを読む」とナゲッツの年俸一覧で確認できる。
昔なら、ブラウンのような“優勝チームで役割がはっきりした控え”は、強いチームが税を払ってでも中くらいの額で残していた。いまはそのチームこそが動けない。お金を出せるのは、キャップに余裕のある、優勝からは遠いチームのほうだ。そうしたチームは、30歳の控えより若い選手に枠を使いたがる。中堅全体が減ったのではなく、30歳前後の“勝つための控え”の行き先が細くなった、と見るのが実態に近い。
上の層でも似たことが起きている。ピストンズのジェイレン・デュレンは、オールNBAに選ばれて結べた上限より約7,600万ドル(約120億円)低い5年2億ドルで延長した(NBC Sports、「デュレンはなぜ期限90分前にサインしたのか?」)。チームが将来の2ndエプロンを気にして、上限まで出さなくなっているのは、中堅だけの話ではない。
ナゲッツファンとして見ると、ブラウンの話は他人事ではない
ナゲッツを応援していると、この議論はそのまま自分のチームの話になる。ヨキッチ、マレー、ゴードンらに大きな額を払っている以上、控えを厚くする手段は最低年俸とドラフトしかない。今季は37歳のデローザンが控えの得点を担うが、けが人が出たときに、ブラウンのような守れて動ける控えを中くらいの額で足すことはできない。
ナゲッツが来夏に2ndエプロンの下に戻れれば、約600万ドルのMLE(税を払うチーム向けの小さな枠)を使えるようになる。戻れなければ、同じ制限がもう1年続く。2ndエプロンを何年も続けて超えると、ドラフトの指名権が後ろに回されるなど罰も重くなる。優勝を狙い続けるほど、控えを育てる力が問われるのがいまのルールだ。
ブラウンがニックスの開幕ロスターに残れるかは、あと10日ほどで分かる。NBAの言うとおり、リーグ全体の年俸は増えている。ただ、その増えた分がどこへ流れているかは、平均の数字だけでは見えない。サラリーキャップの基本は「NBAサラリーキャップの仕組み」で、各チームの年俸は年俸一覧でまとめているので、自分の応援するチームが線のどちら側にいるかも見てほしい。
ブラウンとナゲッツのこれから
- 110月9日
ブラウンが「中堅の選手には厳しい」と話し、同じ日にNBAが「事実ではない」と声明を出す。
- 2開幕前
ニックスが開幕ロスターを決める。ブラウンは最後の枠を争っている。
- 32026-27シーズン中
ナゲッツは2ndエプロンを超えたまま。補強は最低年俸の選手に限られる。
- 42027年夏
ナゲッツが2ndエプロンの下に戻れるかで、MLEを使えるかどうかが決まる。