この記事のポイント
- ニックスは10月9日、延長を結べる**4人全員との交渉をシーズンの後半まで止める**と発表した
- タウンズの延長の上限は4年約2億7,600万ドル、ニックス案は約2億ドル(報道ベース)。差は約7,600万ドルのまま
- ハートの来季は**ニックスが決められるオプション**。急いで延長を結ぶ必要がないのはニックスのほうだ
- オーナーのドランは「2ndエプロンは超えない」と明言。いまの余白は約330万ドルしかない
- 待てば成績を見てから判断できるが、タウンズが来夏にFAになる道も残る
数字で見るニックスの“交渉凍結”
交渉を止めた延長の対象選手(タウンズ・ハート・マクブライド・コレク)
チームの年俸のうち、タウンズとハートの2人が占める割合
ルールで決まった“使えるお金の上限”(2ndエプロン)までの残り。約5億円
タウンズの延長の上限と、ニックス案の差(4年の合計。約120億円)
「シーズンに集中する」ニックスが交渉を止めた
10月9日(現地)、ニックスは延長を結べる選手との交渉を「シーズンの後半まで」行わないと発表した。ニューズデイのスティーブ・ポッパー記者が伝えた声明では、チームは開幕に向けた準備に集中するとしている(Hoops Rumors、Yahoo Sports)。いつ再開するのかは明かしていない。
対象は4人いる。センターのカール=アンソニー・タウンズ、フォワードのジョシュ・ハート、ガードのマイルズ・マクブライド、2年目のタイラー・コレクだ。なかでも注目はタウンズで、10月5日のプレシーズン初戦のあと「状況はよくない」と話し、チームをまとめつつ自分を評価してくれる形を望んでいるが、そのどちらにも近づいていないと不満を口にしていた(Hoops Rumors)。
タウンズの延長交渉が止まっている事情は、10月1日の「タウンズとニックスの延長交渉はなぜ止まった?」で整理した。今回はそこから一歩進んで、チームが公式に“いまは決めない”と宣言した形だ。タウンズ1人の問題ではなく、4人全員の交渉を止めたところに、ニックスの考え方が表れている。
4人の契約を並べると、急ぐ理由がないのはニックスのほう
4人の契約を見ると、どれも来年の夏まで動かなくても困らない形になっている。タウンズは今季の年俸が約5,710万ドル(約90億円)で、2027-28は約6,100万ドルを受け取れるプレーヤーオプションを持つ。ハートは今季約2,090万ドルで、2027-28の約2,240万ドルはチームが決めるオプションだ。コレクも2027-28に約250万ドルのチームオプションがある(Yahoo Sports)。
ここで大事なのは、ハートの来季を決める権利がニックスにあることだ。ハートの延長の上限は4年約1億3,200万ドル(約209億円)と報じられているが、ニックスは延長しなくても、来季も約2,240万ドルでハートを手元に置ける。急いで高い延長を結ぶ理由はない。ハートはメディアデーで「決まらない状態は人をすり減らす」と話しており、早く決めたいのはむしろ選手の側だ。
タウンズの場合はオプションを持つのが本人なので、ニックスにも時間の制約はある。それでも、来年6月にタウンズがオプションを使えば、ニックスは2027-28も約6,100万ドルで契約を続けられる。破棄してFAになる場合も、ニックスは他のチームより高い額を出せる立場にある。マクブライドは今季が3年約1,300万ドルの最終年で、今季の年俸は約396万ドル。来夏に制限なしのFAになるが、これも今すぐ決めなければいけない話ではない。
タウンズとハートの契約を比べると
オーナーの「2ndエプロンは超えない」が交渉を縛る
ニックスが慎重な一番の理由は、オーナーのジェームズ・ドランの方針だ。ドランは優勝の4日後にラジオ番組で、2ndエプロンを超えるお金は出さないと話した(Yahoo Sports)。2ndエプロンは、超えるとトレードや補強に強い制限がかかる“使えるお金の上限”のようなラインで、仕組みは「NBAの2ndエプロンとは?」で解説している。
サイトのニックスの年俸一覧(9月29日時点)では、今季の総年俸は約2億1,840万ドル。2ndエプロン(約2億2,169万ドル)までは約330万ドル(約5億円)しかない。そのうちタウンズとハートの2人で約7,800万ドル、全体の約36%を占める。OG・アヌノビー、ジェイレン・ブランソン、ミカル・ブリッジズの3人は今季合わせて約1億1,370万ドルで、この3人の年俸は来季以降も上がっていく(Hoops Rumors)。
つまり、タウンズとハートにいま延長を約束すると、その金額がそのまま2027-28以降の上限との戦いに直結する。しかも来夏にはブランソンとアヌノビーも延長を結べるようになる。ニックスにとっては、5人分の将来の年俸をまとめて考えなければ、どの1人の延長額も決められない状態だ。
ニックスの年俸の総額(約2.18億ドル)のうち、タウンズとハートの分
- タウンズとハート36%
タウンズ約5,710万ドル+ハート約2,090万ドル(約123億円)
- アヌノビー・ブランソン・ブリッジズ52%
ほかの主力3人。約1億1,370万ドル(約180億円)
- ほかの選手12%
約2,670万ドル(約42億円)
待てば成績を見られる。ただし失うものもある
交渉を止めるいちばんの利点は、シーズンの中身を見てから判断できることだ。タウンズは11月で31歳になる。ニックス1年目の2024-25は平均24.4点だったが、優勝した2025-26は平均20.1点に下がった(Basketball Reference)。今季の数字がさらに下がれば、4年約2億ドルというニックスの提示は妥当に見えてくる。逆にタウンズが復調すれば、上限に近い額を求める声は強くなる。どちらに転んでも、判断の材料が増えるのはニックスだ。
もう1つの利点は、トレードの自由を残せることだ。延長を結んだ選手は、契約の形によってはしばらくトレードしにくくなる。2ndエプロンぎりぎりのチームにとって、シーズン途中に年俸の調整が必要になったときの選択肢を残しておく意味は大きい。
一方で、失うものもある。タウンズは「ニックスの提示には敬意が足りない」と感じていると報じられており(Hoops Rumors)、交渉の凍結でその気持ちが和らぐとは考えにくい。ハートの「すり減らす」という言葉どおり、契約の不安を抱えたままのシーズンはロッカールームに影響することもある。また、シーズン中に延長を結ぶには、オプションの扱いを先に整理する必要があると報じられている(Yahoo Sports、報道ベース)。シーズン前の延長と比べると、手続きの自由度は下がる。
連覇を狙うシーズンは“答えを先送りした”まま始まる
これからの分かれ目は、ニックスが交渉を再開する「シーズンの後半」と、タウンズがオプションを判断する来年6月だ。考えられるのは、シーズン中に双方が歩み寄って4年2億ドル台で合意する形、合意しないままタウンズがオプションを使って2027-28もプレーする形、そしてオプションを破棄してFAになる形の3つ。いずれの場合も、ドランの方針が変わらない限り、優勝メンバー全員を2027-28以降も残すのは難しい。
似た構図は、延長のタイミングを自分で選ぼうとしているヨキッチにもある(「ヨキッチはなぜ延長にサインしないのか?」)。選手が“いつサインするか”で得をしようとするのと同じように、ニックスは“いつ決めるか”を自分の手元に残した。今回の発表は、交渉の決裂ではなく、時間を味方につけるための判断と見るのが自然だ。
53年ぶりの優勝を支えたブランソンの割安な延長は、チームが強くなった理由の1つだった(「ニックスの強さの秘訣」)。同じことをタウンズとハートにも求められるのか。答えが出るのはシーズンの後半だ。FAの基本は「NBAのFAとは?」で解説している。交渉が再開したら、このサイトで続報をまとめる。
これからの分かれ目
- 110月9日
ニックスが「シーズンの準備に集中する」として、延長の交渉を止めると発表。
- 22026-27シーズン中
「シーズンの後半」に交渉を再開する予定。時期は明かされていない。
- 32027年6月
タウンズは約6,100万ドルのオプションを使うか、破棄してFAになるかを決める。ニックスはハートのオプションを判断する。
- 42027年6月30日
今季の延長の期限。マクブライドはこの日を過ぎると制限なしのFAになる。