この記事のポイント
- 2016年7月、コンリーはグリズリーズと5年1億5,300万ドルで再契約。総額で当時のNBA史上最高額だった。
- 新しい放映権契約で、キャップは1年で7,000万ドルから9,414万ドルへ約34%上がった。
- リーグは「少しずつ上げる」案を出したが、2015年に選手会の選手代表が全会一致で断った。
- 増えたお金はその夏に契約した選手に集まり、カリーのように契約途中の選手は取り残された。
- 2023年の労使協定で、キャップの上がり方は1年10%までになった。
数字で見る2016年の夏
コンリーの5年契約の総額。当時のNBA史上最高額
1年でのサラリーキャップ(年俸に使えるお金の上限の目安)の上がり方
契約した時点でのコンリーのオールスター選出
同じシーズンのカリーの年俸。前年のMVP
オールスター経験なしで、史上最高額
2016年7月、グリズリーズのマイク・コンリーが5年1億5,300万ドルで再契約した。総額は当時のNBA史上最高額だった。いまのレート(1ドル=158円)なら約240億円になる。(ESPN、AP)
コンリーは2007年のドラフト全体4位。堅実な司令塔で、守備の評価も高かった。ただ、それまでオールスターに選ばれたことは一度もない。初選出は2021年、ジャズに移ってからだ。
他のチームが出せたのは4年約1億1,400万ドルまでだった。グリズリーズは自分のチームの選手なので、5年目を付けられた。それでも、レブロンやカリーの契約を超える額になったのは、実力よりもその年のキャップのせいだ。(ESPN)
キャップが1年で34%上がった
サラリーキャップは、各チームが選手の年俸に使えるお金の目安だ。リーグの収入から計算するので、収入が増えれば上がる。仕組みは「NBAサラリーキャップの仕組み」にまとめている。
2016-17シーズンから、ESPN・TNTとの新しい放映権契約が始まった。9年で総額240億ドルの大型契約だ。リーグの収入は一気に増えた。(SI、NBA.com)
その結果、キャップは7,000万ドルから9,414万ドルへ上がった。1年で約34%だ。それまでは、大きく上がった年でも800万ドルほどだった。ほぼ全チームに大きな空きができ、FA選手の相場が一気に上がった。(NBA.com、SI)
同じ夏には、ほかにも大型契約が並んだ。ティモフィー・モズコフは4年6,400万ドル、ジョアキム・ノアは4年7,200万ドル。どちらも数年のうちにチームの重荷になり、“2016年の払いすぎ”の例として名前が残った。(ESPN、AP)
サラリーキャップの移り変わり(2014-15〜2017-18)
選手会が「少しずつ」を断った
急に上がることは前から分かっていた。そこでリーグは2015年、選手会に「スムージング(平準化)」を提案した。増えた収入を数年かけて、少しずつキャップに反映する案だ。
上げ幅を抑えると、そのぶん選手の取り分が足りなくなる。その分は選手会にまとめて払い、全選手で分ける。選手に入るお金の総額は変わらない、というのがリーグの説明だった。
2015年3月、選手会はこの案を断った。約50人の選手が集まった会議で、各チームの選手代表が全会一致で反対した。事務局長のミシェル・ロバーツは、キャップを人工的に低く抑える案だと話している。(SI、NBA.com)
当時の選手会の会長はクリス・ポール、副会長にはレブロンがいた。選手代表の全会一致ではあったが、その夏の市場で得をする立場の選手も、決める側の中心にいたことになる。
リーグが出した「スムージング」案
- 1キャップ
放映権で増えた収入を、数年かけて少しずつキャップに反映する
- 2足りない分
上げ幅を抑えたぶん、選手の取り分が足りなくなる
- 3まとめて分配
足りない分は選手会にまとめて払い、全選手で分ける
- 4結果
選手に入るお金の総額は変わらない(リーグの説明)
得をした選手、取り残された選手
総額は同じでも、誰の手に入るかは変わる。キャップが一気に上がれば、増えたお金はその夏に契約する選手に集まる。コンリーは、ちょうどその夏にFAになった。
レブロンは2015年、翌年に自分で契約を打ち切れる短い契約をあえて選んだ。そして2016年夏、3年約1億ドルで結び直している。同じ夏、デュラントはキャップに空きのできたウォリアーズへ移った。(ESPN、AP)
損をしたのは、長い契約の途中にいた選手だ。カリーは2012年に4年4,400万ドルで延長していた。2016-17の年俸は約1,210万ドルで、前年のMVPがチーム内で4番目だった。スムージングなら、こうした選手にも分け前が届いていた。(CNBC、ESPN)
2016年の夏、得をした選手と損をした選手
選手会の判断は正しかったのか
選手全体で見れば、悪い結果ではなかった。2016年12月、ロックアウトなしで新しい労使協定がまとまった。選手の取り分は収入の49〜51%のままで、ミニマム年俸は45%上がった。(AP、ESPN)
一方で反動もあった。多くのチームが2016年に空きを使い切り、翌年のキャップは9,909万ドルにとどまった。2017年夏は空きのあるチームが少なく、中堅のFA選手は予想より安い契約しか取れなかった。(The Ringer、NBA.com)
デュラントを加えたウォリアーズは、2017年と2018年に連覇した。増えたお金が一部の選手とチームに偏った夏だった、というのが今の一般的な評価だ。
同じことは、もう起きにくい
この夏の反省から、2023年の労使協定にはキャップの上がり方は1年10%までという決まりが入った。新しい放映権契約より前に決めておいたのが、2016年との違いだ。(Hoops Rumors、CBS Sports)
2025-26からは、NBC・Amazon・ESPNとの11年総額760億ドルの契約が始まった。それでもキャップは2025-26に10%、2026-27に6.5%の上昇にとどまっている。今季のキャップは1億6,496万ドルだ。(NBA.com)
いま平均年俸が毎年上がっているのは、この「少しずつ」の結果でもある。今季の選手ごとの年俸は年俸ページで見られる。中堅の選手が突然“史上最高額”になるようなことは、もう起きにくい。