「司令塔がエースなら、守れる相方が要る」という仮説
NBAのチーム作りでよく語られる経験則がある。「チームのエースがガード(司令塔)なら、バックコートのもう一人は優れたディフェンダーでなければ優勝できない」というものだ。得点を担うエースガードと、守備を担うもう一人のガード——この組み合わせが、王者の条件だという見立てである。
実際、歴代の優勝チームを並べてみると、この仮説に当てはまる例は驚くほど多い。まずは、その代表的なバックコートを見ていこう。
当てはまる優勝チームたち
現代の象徴がゴールデンステイト・ウォリアーズだ。攻撃の絶対的エースであるステフィン・カリーの隣には、クレイ・トンプソンがいた。クレイは3ポイントの名手であると同時に、相手の最も危険なガードを任される屈強なペリメーターディフェンダーでもあった。攻めはカリー、相手のエース封じはクレイ——役割が明確に分かれていた。
古くは“ショータイム”レイカーズのマジック・ジョンソンの隣に、元最優秀守備選手(DPOY)のマイケル・クーパーがいた。バッドボーイズ・ピストンズでも、得点源のアイザイア・トーマスの隣を固めたのは、マイケル・ジョーダンを苦しめ続けた守備の名手ジョー・デュマースだった。エースが攻め、相方が守る——優勝した司令塔の隣には、確かに守備の相棒がいたのだ。
なぜ“守れる相方”が必要なのか
理由はシンプルだ。攻撃に多くのエネルギーを割くエースガードは、守備で相手に狙われやすい。プレーオフの厳しい局面では、相手は容赦なくエースをスクリーンで引きずり出し、守備のミスマッチを突いてくる。
そのとき、バックコートにもう一人“穴を埋められる守備者”がいれば、相手のベストガードをそちらに任せ、エースの守備負担を軽くできる。エースをオフェンスに専念させながら、バックコート全体の守備を破綻させない——この設計ができるかどうかが、長丁場のプレーオフを勝ち抜く分かれ目になる。
頂点に届かなかった“攻撃特化”コンビ
逆の例も雄弁だ。スティーブ・ナッシュ全盛のサンズは、リーグ最強クラスの華麗なオフェンスを誇りながら、バックコートに飛び抜けた守備者を欠き、ついに優勝には届かなかった。
ポートランドのデイミアン・リラードとCJ・マッカラムも、二人とも得点能力に長けた魅力的なコンビだったが、守備面では相手に的にされやすく、王者にはなれなかった。攻撃に偏ったバックコートは、レギュラーシーズンは沸かせても、守備の強度が上がるプレーオフで失速しやすい——仮説を裏側から支える実例だ。
では“法則”なのか — 反例も例外も、実は否定していない
ここで鋭い反論がある。前章で“傍証”として挙げたナッシュやリラード&CJは、そもそも優勝していない。つまり彼らは仮説をくつがえす反例ではなく、「守れる相方を欠けば勝てない」を裏づける材料そのものだ。仮説に反するどころか、むしろ補強している。
では“例外”としたウェイドやコービーはどうか。彼らは相方ではなく“エース自身”が一流の守備者だった。だが結局、優勝チームのバックコートに優れた守備者がいたという事実は変わらない。そこで仮説を「ガードがエースの優勝チームには、必ずバックコートに一流の守備者がいる(それがエース自身でもよい)」と言い換えると、歴代の王者にほぼ例外なく当てはまってしまう。
ここまで来ると、確かに“傾向”より“法則”と呼びたくなる。唯一の留保は、こう言い換えた瞬間、それは「バックコートの守備を欠いたまま優勝した王者はいない」という、より広く当たり前の真実に近づくこと——守備を軽視して勝てるチームなど、そもそも存在しないからだ。それでも、「攻撃型のガードをエースに据えるなら、隣に守備の担保を必ず用意せよ」という実践的な“鉄則”として、これは今なお極めて有効だと言える。
